実家じまいで大量のアルバムやフィルムを節目写真館にお願いしてデジタル化してもらいました。色補正したデータがついていたのですが、節目写真館の色補正は生成 AI だったため、色味はすごくよかったのですが、人の顔や看板の文字がおかしくなってしまって保存版とするにはちょっと問題ありでした。そこで 1 枚ずつ手動で退色補正するために、まずはネガフィルムとプリント写真の退色の仕組みについてまとめました。
目次
光の三原色と色の三原色

プリントは色の三原色の CMY (シアン Cyan ・マゼンタ Magenta ・イエロー Yellow )を混ぜて色を表現しています。一方、ポジフィルムは透過原稿なので光の三原色の RGB (赤色 Red ・緑色 Green ・青色 Blue )ですが、ネガフィルムは RGB の補色である CMY で記録してあります。スマホやパソコンのディスプレイで見る写真も RGB です。

→サイエンスデイズ:「光の三原色」と「色の三原色」と「色の見え方」
年代とメーカーによる退色の違い
それぞれの色素の退色具合に差があり、古びた色合いになるのです。退色の具合はプリントの場合は印画紙の色素によるので、メーカーによって差が出ます。うちにあったプリントは 9 割方は富士フイルムのもので、 1990 年代以降はそこまで退色がひどくありません。

富士フイルムの印画紙プリントのものを年代順に並べてみました。流石に 1970 年代や 1980 年代のは退色がわかりますが、 1990 年代以降のものはそこまで崩壊していませんでした。 1982 年と 1986 年のものは 4 年しか違わないのに、退色の具合が明らかに違うので、多分ここの辺りで色素の技術革新があったのでしょう。 1993 〜 1994 年のものは紅葉の赤が若干退色していますが、 1998 〜 2006 年のものは赤がきれいなので、ここでもたぶん技術革新があったと思われます。

左が富士フイルムの印画紙のもので 1998 年と 2000 年と 2006 年のもの、右が KODAK の印画紙のもので 2005 年のものです。紅葉の写真は富士フイルムのものは 1998 年で KODAK のものは 2005 年なので、 KODAK のは 7 年も新しいのに赤色が鮮やかではありません。ほかの写真も全体的にくすんだ色合いになっています。

プリントをスキャンしてもらった中で、年代は比較的新しいのに退色がひどいのは、 1998 年にタイに旅行にいったときに象の乗った写真を撮影したものです。現地で現像してプリントしてもらったものです。先の紅葉の写真と同じ年の写真プリントとは思えないです。たぶん粗悪な印画紙だったのでしょう。
銀塩写真が退色する原理
以下によると退色には光による明退色と、熱や水で分子結合が弱くなることで起こる暗退色があるそうです。
→フィルムのデータ化なら堀内カラー:大切なフィルム、色あせしていませんか?
明退色
明退色はマゼンタが退色しやすく、プリント写真の場合は残ったシアンとイエローで青っぽい写真になります。マゼンタは補色である緑色の光(波長:約 500 〜 550 nm )を一番吸収します。日常光にこの緑色のが多く含まれるため、真っ先に結合が破壊され退色します。また可視光線で一番波長が短いのは青紫〜青あたりで、その光を吸収するのはイエロー色素なのでそれがその補色の青が退色しやすそうに思います。しかし一番退色しやすいのはマゼンタで、マゼンタが元々分子構造が光のエネルギーに対して弱いのもその一因になっています。(写真を部屋にあまり飾っていないので、明退色については深追いしません。)
暗退色
暗退色は熱と水に弱いイエローやシアンから退色していき、マゼンタは熱や水には強いので色が残ります。具体的にはイエロー→マゼンタ→シアンの順番で退色しやすいです。これはプリント写真とネガフィルムに共通です。
印画紙プリント写真の暗退色
プリント写真は色素がある波長の色を吸収し、それ以外の反射した色が目に入ります。
| 色素 | 吸収する光 | 反射する光 | 色素が退色した場合 追加で反射する光 |
|---|---|---|---|
| シアン | レッド | グリーン・ブルー | レッド |
| マゼンタ | グリーン | ブルー、レッド | グリーン |
| イエロー | ブルー | レッド、グリーン | ブルー |
イエローとシアンが退色しやすいので、残ったマゼンタ(赤紫色)になります。イエロー→マゼンタ→シアンの順で退色(化学変化)するのはネガフィルムもプリントも一緒ですが、混ざり合っているので、退色する順番はレッド→ブルー→グリーンです。

上の写真は 1979 年に父がハワイで撮影したものです。赤紫色っぽくなるはずなのに、実際のプリントを見てみると、黄色から褐色の色味が強いです。これは色素の退色ではなく、経年劣化や湿気で印画紙自体が黄色く変色してしまったためです。退色したプリント写真を本当にキレイに修正したければ、写真の縁の白い部分の色を除算で取り除いてやればいいわけです。
白い部分が黄変するのは印画紙の劣化、暗い部分が褪せたり赤みを帯びるのは銀塩の経年変化ですね。この辺はメーカーや焼き付け時の処理で差が出るので。確か日本で褪せた銀塩写真を化学変化で修復する技法の特許があったはず。 https://t.co/KZVwV2w70i
— コデラゴ = サン (@koderago) October 31, 2026

退色したプリントからスキャンした実際の写真のヒストグラムは明るい方からレッド→グリーン→ブルーの順で並んでいます。これは印画紙が変色した黄色が光の三原色ではレッドとグリーンで個構成されているため、印画紙の変色が激しい場合、グリーンの退色の度合いがアップし、ブルーとの順番が入れ替わるためだと考えられます。
ネガフィルムの暗退色
ネガフィルム上のイエロー色素とシアン色素が退色して薄くなるので、ネガフィルムをスキャンしてディスプレイで見た場合はその補色であるレッドとブルーが薄くなりグリーンっぽくなります。特に 1980 年代以前のものはその傾向が顕著です。またネガフィルムの層は上からイエロー層→マゼンタ層→シアン層と重なっているので、保存しているポリエチレンのスリープの影響を受けてイエローがより破壊されます。
→省型旧形国電の残影を求めて:決定版 ! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術 (4) Ver. 2
変褪色したネガフィルムの場合、 B >> G > R の順に褪色しやすくなっています。
上記ページによるとブルー→グリーン→レッドの順で退色しやすくなっているようです。フィルム上のイエロー→マゼンタ→シアンの順で熱・湿気により壊れやすいことを示しています。
→鈴木写真変電所:フィルムスキャン&プリントの S
これは日本のネガフィルムがグラシン紙ではなく、ポリエチレンの化学樹脂スリーブに入っているので、逃げ場がなくなった溶着部の化学反応によるガスの高濃度化により、フィルムの一番上にあるイエローが影響を受けるようです。イエローが退色すると、その補色であるブルーが薄くなり、全体的にブルーかかって見えます。
つまり 2 つの退色を合わせるとグリーンとブルーを加法混色したシアンに近い色合いになります。
実際に補正なしでネガフィルムを読み込んでみる
ここまでが理論上の退色後の色合いです。実際にネガフィルムをスキャンした写真を見ていきましょう。

写真は 1971 年(半世紀以上前!)に父が撮影した山陰の日和山海岸です。しかし節目写真館でネガフィルムをスキャンしたものを見ると、マゼンタに傾いています。どうやら業務用のフィルムスキャナーは読み込み時に退色補正しているようです。その補色が強すぎてマゼンタがかって見えるようです。
そこで現在のフィルムに記録されている色合いを確かめるために、簡易的なフィルムスキャンを行いました。簡単に書くとスマホで白い画像を表示し、その光をネガフィルムの下から当てて、デジカメで撮影するというものです。(方法は後日詳しく記事にします。)

ネガフィルムを撮影したものです。

この RAW 画像を TIFF に変換し、 GIMP で オレンジベースの影響を取り除き、階調の反転を行いました。するとシアンに傾いた画像になりました。これが業務用フィルムスキャナーが退色補正をかける前の色です。

写真部分のみ切り抜いてヒストグラムを表示させてみました。ヒストグラムは明るい方からブルー→グリーン→レッドの山になっていて、ブルーが明るくなっている(退色している)ことがわかります。フィルム上ではそれらの補色であるイエロー→マゼンタ→シアンの順で退色(化学変化)していることがわかり、理論と一致しました。

ちなみに 2005 年にクロアチアのドブロブニクで父が撮影したフィルムも同じように作業してみましたら、こちらも青に傾いています。イエロー色素が退色しているようです。(銀塩写真の中では新しい方ですがそれでも 20 年以上前のものですからね。)
まとめ
暗退色における感材の色素の退色のしやすさの順と、それをスキャンしてディスプレイで表示したときの退色の順を表にまとめました。
| 感材上の色素の退色順 | スキャン後ディスプレイ上の退色順 | 印画紙の変色 | |
|---|---|---|---|
| 印画紙プリント | イエロー→マゼンタ→シアン | レッド→ブルー→グリーン | イエロー(レッド + グリーン ) |
| ネガフィルム | イエロー→マゼンタ→シアン | ブルー→グリーン→レッド | – |
いろいろな原因で退色した写真を元の色味に戻すには、上記の順番を念頭に置きいながら、退色した写真の RGB のヒストグラムを元の形に近いものに編集するのが基本です。写真現像ソフトなどのトーンカーブを使っても行えますが、プリント写真は色がかなり破綻しているため補正が難しいので、 ART というフリーの現像ソフトに CTL スクリプトの「 RGB シグモイド」と「相対色領域 RGB カーブ」を入れてヒストグラムを操作しています。その方法は後日記事にします。






